海外出張の回数が増えると、やはりトラブルに遭遇することも増えてきます。言葉が通じなかったり、勝手がわからない分、日本で生活するよりもそのリスクは大きいのですが、よっぽどのことでない限りは自分自身で対処することが求められます。本来であれば常に気を引き締めておくべきなのですが、どうしても気の緩みやイレギュラーは生じるわけで… 自身もこれまでいろいろとやらかしているので、自身への戒めと注意喚起のためにポストしていきます。
数年前の冬、出張でドイツの地方都市に出かけました。山あいにある小さな町で、そこに取引先の工場がありました。シュトゥットガルトから電車を乗り継いで2時間ほどの土地で、その日は夜のうちに移動して、工場のある町で宿泊する予定となっていました。
この時は、国内を担当している40代の技術者の方、吉村さん(仮)も同行していたのですが、海外出張の経験はほとんどなかったため、自分が引率する形でした。バッチリ任せちゃってくださいよ〜なんて完全に調子こいてました。まさかあんな事になるなんて。
前の予定を終え、シュトゥットガルトには夜の9時過ぎに到着。たしかこの時は2月頃で、外の気温は氷点下を切り、雪も降っていました。そのせいもあってか、そこから乗り換え駅までの電車が遅れ、目的地に向かう最終の電車にギリギリで乗り継ぐ形になりました。これを逃していたら明日の予定が狂うところだった…なんとか間に合ったと安堵して席に座ります。
車内はガラガラで、自分たちの他にはお客さんが数組だけ。
そのうち駅名のアナウンスがあるだろう…と思いながら座り続けていたものの、一向にその気配がない。何かおかしいな〜怖いな〜怖いな〜と思って路線図を見てみると、
路線が二つに分かれているんです。
…いや、でも駅で見た掲示板には正しい進行方向が載っていたし、ひょっとすると電車が遅れていて、まだ分岐点にも届いていないのかもしれない… 一縷の望みを託して、次に停まった駅に降りて駅名の確認を試みます。
無人駅で明かりが全然なくて、何も見えない。
しかもプラットホームには雪が積もっている上、電車がとの段差が大きすぎて危うく電車に戻れなくなるところでした。ここで戻れなかったら絶対遭難してた。そもそも駅舎らしきものが何もなかった気がするけど、あれは本当に駅だったんだろうか。
ここがどこかの把握もできないので、別の車両に移り、その車両の唯一の乗客のカップルに英語で尋ねます。
「あの〜私達ここに行きたいんですけど、今ってどのあたりですかね…」
「えっ!この電車だと着かないよ!」
分岐点ゴリゴリに過ぎてました。
どうも車両が途中で切り離され、別の目的地に向かうパターンだったようで、すっかり気づかずにハズレの車両に乗ってしまっていたのでした。しかし確かこの電車は終電。こうなったら傷が浅いうちにどこかで降りてタクシーで移動するしかない。
「えっと…この後停車する駅で、タクシーが拾えそうな駅ってどこでしょう…」
「うーん…ここなら多分人がいるかなあ、かろうじて。」
少ししてカップルは無人駅のようなところで降りていってしまいました。それにしてもさっきから無人駅みたいなところにしか停まらない。何なのこの電車?銀河鉄道なの?(イメージ)
吉村さん(仮)が不安そうにしています。正直自分もめちゃ不安です、が、それを言っても不安を増幅させるだけです。
「いや〜参りましたね〜。まあ最終的に何とかなりますから大丈夫ですよ。海外ではよくあることです!」
全く根拠はありません。
とにかく、さっき教えてもらった駅で降りるしかない… 聴覚に全神経を集中して駅名のアナウンスを聞き取ります… あ!次だ!!
見た感じ無人駅に毛が生えたレベル…しかしここで乗り過ごすとまじでどこまでつれていかれるかわからない。意を決して下車。
…しかし、プラットフォームからすぐに外に出られるような作りになっており、駅前感が全くありません。タクシーはおろか、店のようなものも全く見当たりません。完全に住宅街の中。
仕方ないので、駅舎の中でひとりで働いている鉄道員のおじさんに声をかけます。ほんとにかろうじて人がいた。
「あの…電車間違えてここまで来てしまって、この町まで行きたいんですけど… タクシーとかって、呼べたりします?」
「えっ!…タクシーは、ありませんね…」
死んだ…この気温で一晩野宿したら死ぬ…
と思ったら、さすがに気の毒に思ってくれたのか、どこかに電話をかけて何か聞いてくれているようです。
「友達に聞いてみたら、送ってくれるって。…ただ、60ユーロかかっちゃうけど、大丈夫?」
「お願いします。(即答)」
60ユーロで2人の命が助かるなら安い。安すぎる。ヨーロッパのタクシーって30分も乗ってたらそのくらいするし。
オイルヒーターの入った待合室で待つこと数十分。いかにもドイツっぽいヒゲのおじさんが車で来てくれました。車内の温度計の表示は-15℃…本当になんとかなって良かった…
しかしこのおじさん、どうも晩酌を終えた後だったようで、ちょいちょい無理な車線変更をしたり、ついうっかり10分に1回路肩に乗り上げたりしている… ここまで来て死にたくない…とただ祈ること1時間強、無事に宿泊先まで送り届けてくれました。おじさんありがとう。生きてて良かった。吉村さん(仮)ごめん。
翌日取引先の人にこの話をしたら、「どこその駅!全然聞いたことない!」と爆笑されました。この町かてどっこいどっこいじゃという気もしましたが、ぐっと飲み込みました。60ユーロでスリルとネタを買ったと思うことにしよう。
学んだこと
・電車移動は事前にしっかり下調べしよう。特にローカル線は。
あの時このAppがあれば….
・アナウンスが現地語だけだったりするので、何かやばいと思ったらすぐ人に聞こう。
・いざという時のために、多少の現金は持っておこう。
・同じ状況の旅行者がいたら助けてあげよう。